卒論を書くにあたり、2年前に書いた文章を見直してみると、よくもまあぬけぬけとこんなことを書いていたなぁ、と恥ずかしくなる。

 あなたは今まで金融工学(ファイナンス理論)にどのようなイメージを持っていたか.そのイメージはどのように変わったか.金融工学は実務的に何の役に立つと思うか.あるいは,何故,役に立たないのか.あなたの考えを述べよ.

これに対する答えとして↓

 金融工学といわれる分野が先端として注目を集めている。ただ、その理論はとても難しく、専門家以外は結果をありがたく受け取っておくしかないのが現状である。理解はできないが何かものすごいものらしいと多くの人は考える。自分もこの程度の認識しかしていなかった。
しかし、金融工学の本を読むうちにその考えは変わっていった。
まず、金融工学とは「リスク」を扱う学問であるというところから出発している。そして、そのリスクは発生原因にかかわらず等質のものであり、1つの種類のリスクを別の種類のリスクに変換して商品化することが可能だとされている。天候デリバティブの例では、自然現象に関連したイベントリスクを保険リスクに変換する取引があげられている。この変換により、保険リスクをオプション料という形で評価ができるとされている。
では、なぜこのような取引が行われるのか。それは、なるだけ損をしたくないという買い手の欲求に売り手が反応したからである。つまり、買い手のニーズに売り手がこたえたわけである。金融工学は新たなビジネスチャンスを生むきっかけとなる(当然リスクは付いてくるが)。
また、金融工学の原理の1つとして、無裁定価格理論があげられている。異なる市場での取引をすることによって、リスクなしに利益をあげることはできないとしている。つまり、裁定機会を得ることができないように市場価格は変動するということである。
このように、金融工学は当たり前のことを再認識させてくれる。何か物事を行おうとする時にはリスクは付き物である。リスクなくして新しい事業は始められない。また、経済は買い手の必要に応じて変化していくものである。そして、そこにビジネスチャンスは生まれる。このような当たり前のことを金融工学ではいっている。
では、このような金融工学は実務の役に立つのであろうか。
たしかに、金融工学は、デリバティブ取引が急増してリスクの全体像が見えにくくなっていた金融機関にとって大変便利なものであった。なぜなら、見えにくくなったリスクを数値化することができたからである。
しかし、このやり方だけでは不充分なことが次第に解ってきた。株(対象商品)の価格変動が正規分布にしたがっていないことは、よく知られた事実である。過去に起こらなかったような激しい暴騰・暴落を見せることもしばしばである。このため、ブッラク・ショールズの公式を用いてオプション料を正確には計算することができない(成立条件に反するから)。あくまで現実世界をラフに近似したものとしてしか使うことができない。
具体的な例として、ヘッジファンドLTCMの破綻があげられる。ブッラク・ショールズの公式を発表した、ノーベル賞受賞者であるショールズが経営者として参加していた会社である。しかし、わずか5年でこの会社は破綻してしまった。原因は、ショールズの意見に反して、社長のメリウェザーがロシア国債に手を出した結果といわれている。同情の余地はあるかもしれない。だが、わずか5年で破綻したという事実は、金融工学の弱点を如実にあらわしている。その弱点とは、現実の市場の変動が理論の仮定する範囲を逸脱した時、金融工学は有効に対応できないということである。
金融工学が果たした役割は画期的なものだった。しかし、それと同時に前提条件となる市場の見方の危うさも露呈してしまった。このため、平穏で日常な日々を想定する限り役に立つかもしれないが、数年に1回起こるかもしれないことに関しては役に立たない。この、まれに起こるかもしれないことのために破綻してしまう例は先ほど見た。
現実をそのまま描写する方法などは現段階では存在しない。それは事実である。そのため、実務に役立たせようとするには無理がある。しかし、前提条件にもっと現実感を持たせることができるならば、金融工学はとても役に立つ分野としてさらに発展することができるだろう。